慶應義塾大学は、テラヘルツ電磁波の偏波情報を用いた超高感度な表面凹凸イメージング手法を開発したと発表した。研究成果は、同大学大学院理工学研究科の安松直弥氏(修士1年)および同理工学部物理学科渡邉紳一准教授の研究グループによるもの。
テラヘルツ電磁波は周波数1012 ヘルツを中心にした電波と光波の境界に位置する電磁波のこと。可視光領域の光とは周波数が異なり、可視光を透過しない半導体、プラスチック、衣類、紙等に一部透過する特性がある。この特性を利用して、プラスチックパッケージ内部の電子集積回路(IC)の非破壊検査や衣服や封筒内部に隠された危険物の検査など、新しい非破壊・非接触センシング技術として広く産業界への応用が進められている。とりわけテラヘルツ電磁波を用いた非破壊表面凹凸形状計測は、各種工業製品の塗装膜下のキズやへこみ検査等、内部構造物の欠陥の早期発見につながるため注目を集めている。しかし、テラヘルツ電磁波の波長が0.1~1mm 程度と著しく長いため、構造物の微細な凹みの深さを1μm (1μm =0.001mm)の感度で観察することが非常に難しく、産業応用に向けた一つの課題となっていた。また、光の波長より細かい凹凸を観察する干渉計という手法では、装置系が複雑になるため、目に見えず取扱いの難しいテラヘルツ電磁波では装置に組み入れるのが困難であるという課題もあったという。
装置の概略図 今回の開発技術では、従来型のテラヘルツ波イメージング装置の検出器の部分を改良した高精度テラヘルツ偏波イメージング装置を凹凸計測に応用した(装置の概略図)。凹凸のある試料表面に楕円偏波したテラヘルツ電磁波パルスを照射した場合、高さの違う2点から反射した電磁波の、ある決められた時刻における偏波方向はそれぞれ異なる。この違いを高精度に計測することで試料の高さ情報を抽出する。本手法により最も感度が高い部分で±0.25μm(電磁波の中心波長600μmの1/1200)の深さ分解能を持つ超高感度凹凸イメージング装置が実現した。
左が同大学ロゴを彫刻したアルミニウム板のデジタルカメラ画像。右は、その超高感度テラヘルツ凹凸イメージ 同装置で取得したテラヘルツ凹凸イメージの例として、同大のロゴを彫刻したアルミニウム板の深さ形状を計測した結果が上図。左画像のデジタルカメラによる写真には接触式厚み計で計測した深さ情報も記してある。二つの切削部分には1μmの深さの違いがあるが、これは右側のテラヘルツ凹凸イメージにおいて、灰色の濃さの違いとして明確に観測されている。このように本装置は1μm以下の深さ分解能を持つ。
今後は非破壊・非接触テラヘルツ凹凸計測による工業検査やヒトの眼の角膜の曲率計測など産業・医療応用展開を目指し、装置の小型化とさらなる高感度化を進めていくとしている。