表面改質展2012が開催、日本のものづくりを支える表面改質技術
日刊工業新聞社の主催する表面改質展2012が、7月4日~6日の三日間、名古屋市のポートメッセなごやで開催された。同時開催の難加工技術展とからめて、加工工具や金型などの耐久性を向上させる表面改質から、自動車の燃費改善を支える表面改質まで幅広い製品・技術が紹介された。
また7月5日には、斎藤秀俊氏(長岡技術科学大学 副学長 物質・材料系教授)が「DLC規格化の意義とISO提案の今」と題した特別講演を実施。日本主導でDLCの標準化・規格化を行うことにより誰もが簡単適切にDLCを使えるようになり、我が国のお家芸である品質を世界に売り込むことができる、と標準化・規格化の意義について解説した。今後の行方として、「軟質膜の定義をどうするか」や「我が国の特許が生きる製造方法の標準化に重点を置く」、「DLCを分類する評価法として、24年度中にエリプソメトリー法・色素法の提案をISO/TC107に提案する予定(摩擦摩耗試験の方法は提案済み)」などを示すとともに、会場に集まった200名以上の聴講者に協力の要請を行った。
一方、展示会の加工工具向けでは、オーエスジーコーティングサービスが航空機の軽量化を図る材料として採用が進むCFRP(炭素繊維強化プラスチック)など難加工材の高効率な加工を実現する高硬度・長寿命のダイヤモンドコーティングを中心に紹介した。また、ユニオンツールは自社のPCBドリルなどで累計約1000万本の量産実績を持つビッカース硬さ6500HVの高硬度な水素フリーのダイヤモンドライクカーボン(DLC)ULF(ウルフ)コートの受託加工などを提案した。
金型向けでは、オリエンタルエンヂニアリングが、パルスDCプラズマCVD(PCVD) 法により4000HV以上の硬さを実現、高張力鋼板プレス加工やアルミダイカストの離型剤フリーの可能性があるスーパーボロンコーティング (TiAlSiBCNO系膜)を被覆した金型などを展示した。清水電設工業は、高張力鋼板(ハイテン材)や厚板化など過酷な状況下での使用が進む金型での被膜剥離につながる局所的弾性変形を抑制する高硬度(Hv3,500)・高密着のZERO-Iコーティングなどを提案した。松山技研は、金型の耐久性を冷間パンチで30万程度と高めつつDLCコーティングに近い摺動特性(摩擦係数0.1程度)を実現、鍛造金型・プレス金型の絞り、曲げ、抜きに高い効果を発揮するTi系コーティングXシリーズなどを出展した。
不二機販は、精密ショットピーニングであるWPC処理により、従来の金属表面の硬度アップだけでなく摺動性の向上、 金属表面への高硬度被膜の形成、高温域での潤滑性が高い被膜形成といった手法を加えて、 熱間鍛造金型や各種切削工具の寿命向上などをアピールした。東研サーモテックでは、ガス浸硫窒化や無酸化焼入れなどの熱処理加工から、タングステンを含有しTiやAl合金などの金属材料との摺動性に適したMe-DLCコーティングや各種PVDコーティングなど、複合的な表面改質処理が行えることを強みとしてPRを行った。
自動車の燃費向上につながるコーティングとして、ユケン工業は、軽量化から採用の進む樹脂を成形する金型で、離型性や耐食性、耐摩耗性(耐久性)を実現する低温処理イオンプレーティング法によるセラミックス皮膜Yコートを紹介、膜の密着性を高める独自洗浄技術による前処理なども併せて提案した。また、ハウザーテクノコーティングは、 ピストンリングなど自動車部品に対し過酷な使用条件での耐久性や潤滑性を付与し、自動車の燃費改善に貢献するDLCコーティングなどを、密着性良く成膜するPACVD(プラズマアシスト化学真空蒸着)成膜装置FLEXICOATなどを紹介した。
こうした表面改質処理の密着性を向上させる下地処理として、たとえば日本スピードショア/ヤマシタワークスは、金型の手磨きが難しい用途でラップ時間を短縮するとともに、コーティングの密着性を向上する鏡面仕上げ装置エアロラップを紹介した。
金型・工具は様々な製品の製造を支える基盤技術であり、表面改質技術は上述のとおり金型や工具の耐久性や生産性を高めている。今回の展示会では、吉川工業が色つきのセラミックス溶射を施すことで耐久性に加え美観向上をアピールしていたが、各種特性を付与して、我が国の製品競争力を高める重要な手法である。だが、その表面改質技術をさらに効果的に使うためには、洗浄技術やWPC処理、研磨を含む下地処理などによる改質膜の強化やその試験・評価技術が必要不可欠だ。グローバル競争の加速する中、それら周辺技術を含む表面改質技術を有効に利用することで、わが国製品のさらなる競争力向上を実現し、工業立国再興の一助となることを願う。