産業技術総合研究所は、鏡状態から透明状態、透明状態から鏡状態に戻すことを1サイクルとした切り替えにおいて、10000サイクル以上(1日に朝と夕方で2回の鏡状態と透明状態の切り替えをしたとき、約30年に相当するサイクル数)の耐久性をもつ調光ミラーをマグネシウム・イットリウム系合金の薄膜材料を用いて実現した。
今回開発したマグネシウム・イットリウム系合金を用いた調光ミラー
今回開発された多層膜 産総研では今回、調光ミラー用薄膜材料として、マグネシウム・イットリウム(Mg-Y)系合金が有力であることを見出した。この合金を用いることで、透明状態と鏡状態の切り替えに対する耐久性が10000サイクル以上まで飛躍的に向上した。耐久性(切り替えることができるサイクル数)はパラジウム(Pd)の膜厚に強く依存し、パラジウムの膜厚が薄くなるにしたがって急速に減少したが、調光ミラー薄膜層とパラジウム触媒層の間に中間層を挿入することで、パラジウム触媒層の膜厚を半分以下まで薄くしても10000サイクル以上の耐久性を維持することができ、触媒層の厚さを薄くすることで透明状態における光学特性が向上した。
さらに、パラジウム触媒層の上に反射防止膜をコーティングすることで、光学特性が一層向上し、これまで産総研が作製した中で最も光学特性に優れたマグネシウム・カルシウム合金を用いた調光ミラーに匹敵する光学特性をもつ調光ミラーの作製に成功した。この調光ミラーを活用することにより、オフィスビルなどの冷房負荷を大幅に低減する窓ガラスの実用化が期待されるという。
今回開発した調光ミラーは、マグネトロンスパッタ装置を用い、ガラス板上に金属マグネシウム、金属イットリウムなどを同時にスパッタして、厚さ約50nmのマグネシウム・イットリウム系合金薄膜を蒸着させ、さらに真空中で極薄く中間層(厚さ約1~2nm)とパラジウム層(厚さ約3nm)をスパッタ・蒸着して作製した。ガラス上の合金薄膜は、作製時は銀色の鏡状態だが、酸素を含まず水素を含んだ雰囲気で透明に変化し、逆に水素を含まず酸素を含んだ雰囲気では鏡状態に戻る。
調光ミラーを窓ガラスとして使用する場合、水素ガスと酸素ガスの簡便な供給システムが必要。今後はガス供給システムの開発に取り組み、調光ミラーを用いた窓ガラスユニットを開発する。さらに、紫外線に対する耐久性の評価などを行うことで、近い将来、オフィスビルの窓材に用いて冷房負荷を大幅に低減できるよう研究開発を進めていく。