産業技術総合研究所 ナノシステム研究部門 ナノシステム計測グループ 堀内 伸上級主任研究員らは、無電解めっきによりプラスチック基材上に形成した金属薄膜に高強度のパルス光を瞬間的に照射すると、基材にダメージを与えずにめっき膜の密着性を向上できることを見出した、と発表した。また、この技術によってめっき膜のパターニングも可能であるという。
PETフィルム上に作製した無電解金めっき膜のパターン(左)と用いたフォトマスク(右)
無電解めっきは、プラスチックなどの絶縁材料や複雑な形状の部品に金属薄膜を成膜する方法として、電子部品や自動車部品など広く産業界で用いられている。一般に、金属膜の作製では、基材との密着性を得るため、基材にあらかじめプラズマ処理や化学的なエッチング処理などの表面を荒らす処理(表面粗化)を施すが、特に無電解めっきでは、このような処理を行わないと、充分な密着性を得ることが難しい。
今回の技術では、基材の表面処理を行わずに成膜しためっき膜に高強度のパルス光を極短時間(数百マイクロ秒)照射して、めっき膜を瞬間的に高温にする。これによって、めっき膜とプラスチック基材の界面だけが瞬間的に加熱されるため、密着性が向上する。また、短時間(マイクロ秒)で大面積(A4サイズ)のめっき膜を処理できる。さらに、パルス光をフォトマスクを通して照射すると、マスクされた部分の密着性が低く、粘着テープで容易に剥がせるため、めっき膜のパターニングが可能である。
今回開発した無電解めっきプロセスは、ほかの金属めっき膜やさまざまなプラスチック基材にも適用可能である。この無電解めっき技術は被災地企業への技術移転を進めているところであり、今後は、被災地企業の要望を踏まえつつ、さまざまな金属とプラスチックの組み合わせに対する有効なパルス光照射条件の収集を行うとともに、用途展開を図っていく。また、今回見出した現象は、めっき膜に特有であり、スパッタリングなどのほかの方法で成膜した金属膜では同様の効果が得られないため、この現象のメカニズム解明を進めていく予定である。