物質・材料研究機構(NIMS)高分子材料ユニット 電子機能材料グループの池田 太一主任研究員は、ドイツのMax Planck Institute for Polymer ResearchのHans-Jürgen Butt教授のグループと共同で、厚さが3.5nmの2次元シート状有機材料、超分子チオフェンナノシートを世界で初めて開発した。
近年、グラフェンなど2次元シート構造をもつ電子材料が注目を集めている。しかし、グラフェンは大きさの制御が難しく、表面の化学修飾による高次機能化ができない。一方、チオフェンは、電界効果トランジスタ、有機太陽電池、有機発光材料(有機EL)などの電子材料として活発に研究されているが、その薄膜製造法には問題が多い。たとえば、真空蒸着法は多くのエネルギーが必要で生産コストも高い。また、高分子溶液を用いたウェットプロセスでは結晶性の高い薄膜を得るのが困難であった。今回、これらの問題を克服し、2次元結晶性のチオフェンナノシートを溶液中で簡便に調製することに世界で初めて成功した。
今回、チオフェン誘導体と柔軟なエチレングリコール鎖を交互につなげた高分子が、特定の有機溶媒中でチオフェン同士が重なり合うように折り畳まれ、さらに折り畳まれた高分子同士が自発的に集まって(自己組織化して)2次元シート構造を形成することを発見した。用いた高分子は約80nmの長さがあるが、きちんと折り畳まれているためにシートの厚さは3.5nmしかない。シート内でのチオフェンの配列は、低分子チオフェン化合物を真空蒸着法で製膜した場合の構造と同様であり、電子機能材料への応用が期待される。ナノシートの大きさは溶液の濃度を調節することで制御でき、高分子の末端を化学修飾することで、ナノシートの表面の高次機能化も可能であることを確認した。
高分子を溶媒に溶かすだけで真空蒸着膜のような単層膜を作製できるため、簡便で省エネルギー・低コストな電子デバイスの製造につながるものと期待される。また、今回報告した高分子の折り畳みを経由した自己組織化は、生体におけるタンパク質の折り畳みと自己組織化を人工的に再現したものであり、学術的にも興味深いという。
チオフェン超分子ナノシート形成過程の模式図