三菱マテリアルは、圧電MEMS (Micro Electro Mechanical Systems)デバイス向けに、従来よりも約4倍の高スループット成膜を可能にするPZT圧電膜用ゾルゲル材料を開発した。
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜を搭載した圧電(圧力を加えると分極を示し、逆に電圧を加えると変形する機能材料)MEMSデバイスは、インクジェットヘッドをはじめRFスイッチなどのアクチュエーター用途やジャイロセンサーや振動センサーなどのセンサー用途において実用化が始まっており、将来のエナジーハーベスターとしても注目を集めている。PZT膜の成膜手法としては現在、スパッタリング法とゾルゲル法(有機金属化合物の溶液(ゾルゲル材料)を基板に塗布し、乾燥してゲル膜を得て、その後焼成することで、基板上に金属酸化物の膜を得る成膜方法)があるが、スパッタリング法はプロセスコストが高いといった課題があることから、同社ではより安価な非真空プロセスであるゾルゲル法用の材料開発を行ってきた。
4インチSiウェハー上のPZT しかし、これまでのゾルゲル法では、良好な圧電特性実現のため数10nmの厚さの膜を数十回積層させ、圧電MEMSデバイスに要求されるミクロンオーダーの膜厚を得る必要があるため、プロセス時間が長いことが量産上の課題とされていた。今回同社が開発したゾルゲル法では、1回の成膜工程で得られる膜厚を増大させるべく、ゾルゲル材料の組成や成膜プロセスを改良した結果、膜厚を約400nmとすることで、積層回数の大幅な削減を可能にしたもの。これにより、成膜スループット(1時間で得られる膜厚)を8.8μm/hにするとともに、膜の圧電定数を-15C/m2とデバイスとして実用上充分な数値であることを確認できたという。
同社はすでに三田工場において、膜形状の素子を製造する技術としてスパッタリング法と比べ、より低コストのゾルゲル法向けに、圧電膜製造用のPZT系ゾルゲル材料を製造・販売しているが、今回の開発ではこれまでの膜形成技術をさらに高度化し、従来のゾルゲル法と比べて約4倍となる、極めて高い成膜スループットを実現したものとなる。
同社では、この技術を向上させるため、今後は成膜装置メーカーとも協力し、MEMS市場で求められる8インチSiウェハーサイズでの量産成膜プロセスを構築しいく。