表面改質展2013開催、機能性付与や耐久性の向上で市場拡大狙う
日刊工業新聞社の主催する表面改質展2013が5月29~31日の三日間、大阪市・南港北のインテックス大阪で開催、15107人が来場した。トーヨーエイテック 表面処理事業部 主幹の中谷達行氏が「自動車から医療へ。表面改質の大いなる可能性」と題して特別講演を行ったほか、富士高周波工業が「レーザクラッディングとレーザ焼入れ」、ハウザーテクノコーティングが「ハウザーのPVDコーティング技術」、八田工業が「真空熱処理について」などの出展者によるワークショップが館内で行われた。展示会では、同時開催の微細・精密加工技術展と併せて、自動車部品や電機部品の機能性向上や、金型・工具の耐久性向上等の目的で使用される表面改質技術が多数紹介された。
熱処理では、エア・ウォーターNVが自動車・部品メーカーを中心に採用が進んでいる「NV窒化」を紹介。ガス活性化(フッ化)処理とガス窒化処理を組み合わせることにより、400℃~600℃と幅広い温度設定が可能で、炭素鋼や低・高合金鋼、ステンレス、鋳鉄、Ni基合金等と適用鋼種が広いことをPRした。また、各熱処理分野に特化し東海地方を中心に活動している4社共同体の金属熱処理ソリューション(幹事会社:菱輝技術センター)は、真空処理、塩浴処理、高周波処理、浸炭処理、窒化処理の専門家集団が素材選択から熱処理、仕上げまでトータルに加工を提案できる体制で品質や納期、コストの問題を解決する、とした。今回の展示会を機に関西圏での受注を目指すという。TD処理を専業としている豊島技研では、自動車メーカーの金型を中心に同処理を行っている強みを活かし、他社に比べて短納期で処理できることや寸法精度の変化が少ないことなどを強調し「PVDコーティングの代替処理としても適用が可能」とした。
コーティングでは、丸紅情報システムズが従来から行っている高硬度のDLC(Diamond‑Like Carbon)コーティング「ULFコート」に加えて、「ULF-Bコート」を参考出品した。ULFコートは炭素のみで構成され、sp3比率が高くHV6500と高硬度のta-c(tetrahedral amorphous carbon)構造だが、ULF-Bコートはsp2比率が高く硬度がHV1500のa-c(amorphous carbon)構造だという。用途としては、クロムめっきやニッケルめっきなど黒色の表面処理の代替処理や高硬度を必要としない精密機械部品や光学系部品をターゲットに受託加工の検討をしているという。また、日本電子工業 大阪工場では、DLC膜にシリコンを含有し高い密着性と摺動性を実現した「NEO Cコーティング」やセラミックコーティングの受託加工を紹介した。コーティング装置では、ハウザーテクノコーティングが最新のアーク成膜技術として「CARC+」や各種PVDコーティング装置の紹介を行ったほか、シーケービーが独・VTD社のPVDコーティング装置「DREVA600」によるコーティングサンプルを展示した。
コーティングなどの前処理として行われるブラスト関連では、不二機販とオカノブラストが出展。前者は精密ショットピーニングとして従来の硬度アップを目的とする表面処理のほか、摺動性の向上、疲労寿命の延長、 耐摩耗・耐ピッチング性の向上などについてサンプルを展示して提案を行った。後者は、精密ショットピーニングにより処理された機械部品や金型、工具をサンプル出品したほか、樹脂成形用金型におけるラッピング技術やブラスト処理によるバリ取り技術を紹介した。このほか、三愛プラント工業は大物配管などの酸洗浄や、真空装置部品など先端技術で使用されている精密洗浄や電解研磨、化学研磨について紹介。三恵ハイプレシジョンでは、遠心力を利用して精密なバリを取る揺動式遠心バレル研磨機を出展した。研磨用のタンクを回転テーブル上に傾斜させて設置し、揺動するように回転させることにより、被加工物が常に水と研磨材に囲まれ、傷や歪みが抑えられる処理を実演した。
テレビ報道や一般紙などではアベノミクス効果による景気回復が喧伝されているが、会場で話を聞いた限り、中小企業が大勢を占める表面改質関連企業では、まだその恩恵に与る企業は少ない。特に、熱処理を生業とする企業は、電気・ガス料金の値上げなどのエネルギーコスト増大により、苦しい経営が続いている。また今回会場となった大阪ではエレクトロニクス産業の不振により、製造業そのものの生産量が減少している。こうした展示会で各分野に向けて表面改質の有用性を訴えることにより、全体のパイを広げていく努力をすることが今後の表面改質の展望を明るくするものと思われる。