パソコン上で動作する液滴形状シミュレーションソフトウエア「HyDro」の操作画面 産業技術総合研究所は、表面濡れ性(親水性/撥水性)の違いによってパターニングを施した基板表面上にインクを印刷塗布したときのインク液滴の形状を、簡易・高速・高精度に予測するシミュレーションソフトウエア「HyDro」を開発した。
昨今、印刷技術を電子デバイスの製造に応用する「プリンテッドエレクトロニクス」技術が大きく注目されている。半導体や金属などの材料を溶解/分散させた電子機能性インクの微小な液滴を基板表面に塗布し、インクが基板上で濡れ広がり乾燥・固化する現象を用いて、微細な電子回路が製造できると期待されている。そこでは、印刷塗布した微小なインク液滴(数ピコリットル~数十ナノリットル)の基板上での形状を、精密に予測することが求められる。
近年、従来の印刷技術の限界を超える高精細化のために有効な手法として、インクが濡れにくい撥水性表面上に、インクが濡れやすい親水性領域の微細パターンを形成し、インクの濡れ広がりを精密に制御することによってインクを高精細に塗布する技術が注目されている。しかし、このような親水/撥水境界を含む基板表面上では、表面の濡れ性を特徴づける表面自由エネルギーが不連続に変化するため、従来の数値シミュレーション法により液滴形状を予測することは容易ではなかった。例えば従来法では、正確な液滴形状が得られなかったり、正確さを求めようとすると最初に仮定する液滴形状(初期条件)を自由に設定できなかったり、あるいは液滴形状の時間変化を追う計算では膨大な時間が必要になるなど、現場の技術者にとって満足のいく数値シミュレーション法がなかった。
これまで、親水性領域と撥水性領域の境界を含む平坦な基板表面上でのインク液滴の形状予測は容易ではなかったが、今回開発したプログラムにより、通常のパソコンを用いて数値シミュレーションを素早く行うことが可能になった。このソフトウエアにより、印刷技術を用いて各種の情報端末機器を製造する「プリンテッドエレクトロニクス」の研究開発が大きく加速されるとともに、表面を介したさまざまな液体プロセスの解析技術への応用が期待される。今後は、今回開発したシミュレーション技術を用いて、電子機能性インクの印刷による高精細な金属配線、電極、半導体層などの製造技術の開発に取り組む。