トライボコーティング技術研究会など、第8回岩木賞贈呈式、第18回シンポジウムを開催
トライボコーティング技術研究会( http://www.tribocoati.st )と理化学研究所は2月26日、埼玉・和光市の理化学研究所・鈴木梅太郎記念ホールで、「岩木トライボコーティングネットワークアワード(岩木賞)第8回贈呈式」および「第18回『トライボコーティングの現状と将来』シンポジウム―Green tribo-coating技術および医工連携への取り組み―」を開催した。
岩木賞は、同研究会と未来生産システム学協会(NPS)などからなる岩木賞審査委員会が表面改質、トライボコーティング分野で著しい業績を上げた個人、法人、団体を顕彰するもので、当該分野で多くの功績を残した故岩木正哉博士(理化学研究所元主任研究員、トライボコーティング技術研究会前会長)の偉業をたたえ、2008年度より創設された。今回は、大賞に「電界砥粒制御技術を用いた表面創成技術」で秋田県産業技術センター、優秀賞に「PIGプラズマCVD装置の商品化とナノ多層DLCコーティング技術」で寺山暢之氏(神港精機)、特別賞に「Unbalanced Magnetron Sputter(UBMS)法によるPtナノ粒子/カーボン電極による定電位電界式臭化水素(HBr)ガスセンサの開発」で理研計器・産業技術総合研究所が、それぞれ受賞した。
冒頭、挨拶に立った大森 整会長(トライボコーティング技術研究会 会長、理化学研究所 主任研究員)は、「当シンポジウムは、トライボコーティング技術研究会が中心となって企画・開催させていただいている。同時に岩木賞の贈呈式ならびに記念講演を行っている。受賞業績から付ける今回のサブタイトルは、地球環境や人に優しい技術ということでグリーンという言葉が入っており、人類の未来にとって非常に有用な業績が表彰され、発表される。また、受賞業績の中には医工連携を促進している技術もあり、時宜にかなった話題が多数発表される」と述べた後、岩木賞各賞の審査経過説明を行い贈呈式に移行した。
大賞の業績は、電界砥粒制御技術を用いて小径工具の微細加工や微小量液体の攪拌といった表面創成と制御技術の産業化を産官連携で実現したもの。発明者の赤上陽一氏の代理で受賞の挨拶を代読した鎌田 悟氏(秋田県産業技術センター 所長)は、「電界砥粒制御技術の開発のきっかけは、今から20年前の1996年に直径10μmの貫通穴に詰まる研磨粉を除去できないだろうか?という課題を秋田大学の先生と県内企業にいただいたことに始まる。この時に流体と分散微粒子で構成される機能性流体に着目した。この機能性流体をどのように微小な貫通穴付近に作用させるかについて試行錯誤を重ねた。ここで物質固有の誘電率に着目して、溶媒よりも誘電率が高く硬度が高いダイヤモンドを微粒子として採用して分散させて、外部よりその流体に与えたところ、ダイヤモンド微粒子が活発に動く現象を見出した。これが電界砥粒制御技術となるが、今度はこの技術をいかに工業化するかが新たな課題になった。小径ボールエンドミルメーカーの協和精工・鈴木社長に流体の動画を見せたところ、“これはおもしろい”と共同開発が決まり工具の長寿命化に貢献する仕上げ加工として実用化された。さらに、派生技術として開発した電界非接触撹拌技術を北東北ナノメディカルクラスター研究会に情報提供したところ、DNAチップや免疫染色の迅速化につながった」と開発の経緯を述べた。
優秀賞の業績は、材料ガスの多量供給やガスの分解パワー向上で3μm/h以上の高い成膜レートと、密着力の強化や内部応力の緩和で最大20μmの厚膜形成などを可能にする「PIG-PECVD装置」の商品化。受賞の挨拶に立った寺山氏は「本技術は私一人で成し得たものではない。イメージしたものを機械設計してくれた方、実際にソフトや装置を製造してくれた方々、また販売をしてくれた営業の方々に対して感謝申し上げたい。また、装置をご購入いただいたお客様がいたからこそ、受賞できたと思っている。今後もお客様が欲しがる装置開発を目指して開発を行っていきたい」と述べた。
特別賞の業績は、半導体工場や化学工場で使用され人体や装置に被害をもたらすHBrガスなどの酸性ガスを低濃度で選択的に検知できる「定電位電界式ガスセンサ」を開発したもの。受賞の挨拶を行った今屋浩志氏(理研計器)は、「弊社は社名のとおり理化学研究所をルーツに持つ企業で、1939年に当時研究所の主任研究員であった辻二郎が開発した光波干渉計という技術を産業界に応用・実用化するために設立された。今回、産総研との産学連携により、UBMS法によってセンサを開発できたことを嬉しく思う。また、我々の持つルーツである理化学研究所で受賞できたことは非常に感慨深い。 “人々が安心して働ける環境づくり”という社是を実践するため、今後も受賞を励みにより良いガスセンサの開発を行っていきたい」と述べた。
贈呈式の後はシンポジウムに移行。岩木賞の記念講演として大賞は久住孝幸氏、優秀賞は寺山氏、特別賞は今屋氏がそれぞれ講演を行った後、以下の会員講演が行われた。
会員講演1「高イオン化スパッタリングによる低温・短サイクル成膜プロセスのメリット」稲垣 力氏(INI Coatings)…同社のHiPIMSをベースとした高イオン化スパッタリング成膜プロセスのメリットと実績を紹介。硬質PVD被膜の品質向上や生産コストの低減、高機能性薄膜や高速反応性スパッタプロセスの開発などについて述べた。
会員講演2「コラーゲン・ゼラチン改質技術‐公設試の独自性をふまえた医療機器開発の事例‐」柚木俊二氏(東京都立産業技術研究センター)…同センターが開発している体温に応答して急速にゲル化するコラーゲン、30℃を超える温度でもゲル化するゼラチンについての医療応用について講演を行った。
会員講演3「理研の小型中性子源RANSによる材料解析」小林知洋氏(理化学研究所)…同研究所が設計、建設を行った普及型の小型中性子源システム「RANS(RIKEN Accelerator-driven Neutron Source))の概要、同システムを使用して行われた研究例として、異種鋼材塗膜化における腐食・水の出入りの可視化、中性子ビーム計測と弾塑性FEMによる金属のメゾスケール変形解析の紹介を行い、併せて橋梁などインフラの非破壊検査装置として屋外使用への可能性についての開発状況について解説した。