パーカー熱処理工業など、第14回表面改質技術研究会を開催
パーカー熱処理工業( http://www.pnk.co.jp )主催、日本パーカライジング( http://www.parker.co.jp/ )共催、パーカーエス・エヌ工業( http://www.parker-sn.co.jp/ )・日本カニゼン( http://www.kanigen.co.jp/ )協賛の「第14回表面改質技術研究会」が10月7日、東京・丸の内の日本工業倶楽部で開催、約250名が参加した。
当日は、パーカー熱処理工業の安部壽士社長が「今年も昨年の御三方の受賞に続き、日本人として東京工業大学の大隅良典栄誉教授がノーベル生理学・医学賞に決まった。この報に接し、日本人の一人として感に堪えない。また日本人の科学研究者の層の厚さを改めて感じている。大隅先生の受賞テーマはオートファジーと聞き慣れない言葉なので調べたところ、自食とも呼ばれ、ギリシャ語で自分自身を意味するautoと、食べることを意味するphagyで構成されているようだ。タンパク質から構成される細胞が不要になった構成要素を自分で分解して再利用する仕組みを解明した。私どもが行っている応用研究とは異なり、このような基礎研究を完成するには長い時間と強靭な忍耐力、さらには飽くなき好奇心などが必要なことを改めて認識した。大隅先生の談話で、“何で?という思いの積み重ねが研究の背景にあり、これが科学の基本である”という言葉を聞いた。これは、今回講師で招いている山本様が所属しているトヨタ自動車の“なぜなぜ5回”に通じる言葉であると感心した」と開会の挨拶を述べた後、各講演の概要紹介を行い、以下のとおり講演が行われた。
「無電解めっきの最新動向と新リサイクル技術」齋木幸則氏(日本カニゼン)…無電解めっきの最新動向では、重金属フリーの安定剤を添加し通常の中高リン無電解ニッケルめっきに比べ耐酸性と付き回り性に優れた「高耐食無電解ニッケルめっき液」や、リン含有量1%以下の耐折性を持つ「超低リン無電解ニッケルめっき液」、65℃の低温で高い析出速度を実現しエネルギーコストを削減できる「低温無電解ニッケルめっき液」、油だまりとなる均一なディンプルを全面に形成し摺動特性を向上できる「ディンプルカニフロンめっき液」などの成膜技術を紹介したほか、各種カニゼンめっきと前加工・後加工との組み合わせによって生産性・性能を向上する複合処理などの加工技術、自動硝酸パッシベート装置などの設備技術を紹介した。また、これまで埋立処理されていた使用済み無電解ニッケルめっき液中のNiを回収し補給液として工場内リサイクルする新技術を紹介。エマルションフロー法の採用により高いNi回収率と、溶媒使用量抑制などの低ランニングコスト、装置のコンパクト化による工場の省スペース化などを実現する「全自動エマルションフロー抽出装置」を開発している。抽出システムの応用例として、使用済みマグネットからのレアメタル分離などへの展開が見込まれるほか、海水・汚染水からのウラン抽出など日本のエネルギー需給率向上に貢献できる可能性を示した。
「トヨタ自動車における熱処理技術開発の事例」山本 出氏(トヨタ自動車)…浸炭関連ではまず、パーカー熱処理工業の設備ICBPによる真空浸炭ガス焼入れをハイブリッド車(HV)の重要基幹部品であるHV複合ギヤに量産適用した事例を紹介。高い歯車精度が要求される同部品において、歯先・ピッチ円上・歯元での硬化層深さのバラツキをガス浸炭・油冷却に比べて半減、同じく歯車精度のハラツキを半減できたと報告した。また窒化関連では、バランスシャフトギヤに浸硫窒化を施して「なじみ性向上によってNV(騒音・振動)低減を図った事例や、吸気バルブリフト量を連続的に変化させ燃費向上を可能にするVALVEMATICに浸窒焼入れを適用することで低歪み化を図り、浸炭焼入れに比べ約55%のシャフト振れ量(精度改善効果)を実現した事例などを紹介した。今後、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)といった次世代自動車が普及した際でも歯車は残り、ピッチング(歯面のはく離損傷)への対策がますます重要になると見られることから、今後も熱処理技術の開発が重要とした。一方で車づくりにおいて加熱にかかるエネルギー削減が求められる中、低CO2の熱処理手法や設備、熱回収の仕組みなどが重要と述べた。
「プラズマ表面処理とバイオミメティクス」高井 治氏(関東学院大学)…プラズマの特性やプラズマプロセスの自動車や半導体、ディスプレイ、太陽電池、二次電池など各種の応用例、特に表面改質への利用ではレンズ・光学デバイス向けの反射防止膜や防曇膜、インプラント向けや手術用はさみ向けのDLC膜、機械部品・工具・金型向けの硬質膜・潤滑膜などの事例について紹介した。また、バイオミメティック機能表面を創製する表面改質技術について解説、有機シリコン化合物トリメチルメトキシシラン(TMMOS)を原料としてマイクロ波プラズマCVDシステムを用いて水滴接触角150°以上の超撥水表面を作製したり、さらに真空紫外光(VUV)照射によって同0°までの超親水性パターンを作製する取り組みなどを取り上げた。さらに、水溶液と協働する非平衡プラズマ(ソリューションプラズマ)プロセッシングによる表面改質として、燃料電池においてカーボン多孔体表面へのAu・Pt触媒の合成・担持への応用などを紹介。最後に、生物に学び生物の持つ形態と機能をいかに実現するかが今後の研究課題、と総括した。