山陽特殊製鋼は、コマツと大阪大学との共同研究で、過共析鋼(炭素を0.8%以上含有する鋼)を熱処理技術などで高靭性化する技術を開発した。過共析鋼は、焼入れ・焼戻しを施すことで高硬度、高耐摩耗性を示すことから工具や軸受、機械構造部品等に多く使用されている。
鉄鋼材料の特性である硬さと靱性はトレードオフの関係にあるが、今回開発した新しい鋼材成分と熱処理によって、高硬度を特徴とする過共析鋼の欠点である低い靭性を大幅に向上させることが可能になった。過共析鋼が低靭性であることの一因として、結晶粒界に沿って起こる破壊(粒界破壊)を起こしやすいことが挙げられる。そこで、大阪大学では、過共析鋼を加熱した際の炭化物の消失過程を詳細に調べ、靭性を劣化させる粒界の炭化物が優先的に固溶・消失する条件を見つけ、粒界に炭化物がほとんど存在しない微細な焼入れ組織を得た。この粒界改質強化と結晶粒微細化を目的とした熱処理「粒界改質処理(Grain Boundary Amelioration:GBA処理)」をキーテクノロジーとして、2013年から山陽特殊製鋼とコマツを含めた3機関により、GBA処理に適した鋼の成分設計、GBA条件の適正化および実部品適用化を目指して共同研究を開始した。さらに2015年度には国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「エネルギー・環境新技術先導プログラム」の支援を受けて、ビッカース硬度700HVの高硬度で、シャルピー衝撃値が100J/cm2(10R・Cノッチ、室温)という高い靭性を示す鋼の開発に成功した。
鋼材の硬さと靭性との関係
この特性は、例えばJIS SKD11などレアメタルを多量に含有する合金工具鋼に匹敵する硬さと、その5倍以上の靭性に相当する。その後、さらなる改良を加えることにより、レアメタルの使用量を抑えた成分系とした上で現時点では最大約200J/cm2といった極めて高い靭性が得られているという。この技術の実用化によって、部品や金型における諸特性の飛躍的な性能向上、部品の小型・軽量化による省エネ・排出ガス削減、レアメタル使用量の削減、といった効果が期待される。今後、さらなる特性の向上と実用化に向けた開発、実証研究を進めていく予定。