ヤマシタワークス( http://www.yamashitaworks.co.jp/ )では、独自開発の鏡面研磨技術「エアロラップ工法」について、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)などドライコーティング成膜の前後処理への提案を強化している。すでに金型や切削工具などへの成膜の前後処理で多くの実績を持つが、機械システムの摺動性向上のための成膜の前後処理などにも適用を進めていく。
エアロラップ工法は、ゼラチンを主成分とした食品性研磨材を核に、水分「マルチリキッド」を含有することで弾力性・粘着性を持たせダイヤモンド砥粒を複合させた研磨材「マルチコーン」を、被加工材(ワーク)表面を高速で滑走させて発生する摩擦力によって磨くもの。乾式と湿式の中間的な湿潤状態で、相手材にダメージを与えることなく、精密研磨、最終仕上げや鏡面仕上げを可能にしている。
エアロラップ工法は通常の手法では磨くことが難しいエンドミルやチップ、ホブカッタなど切削工具の表面やフロート溝、切削屑排出溝など複雑形状のワークも磨くことができる。そのため、適用の広がるアルミ材料の加工において溶着を防止するDLC(水素フリーDLC:ta-Cを含む)コーティングを被覆した工具で、コーティングの前後処理にエアロラップが適用されている。これは、エアロラップ処理をDLCなどPVD処理の前後に行うことで、課題となっていた被膜の密着性改善のほか、コーティングの摩擦抵抗低減などを実現できるためだ。
関西大学などの基礎実験では、エアロラップ処理によって工具すくい面の研削面粗さを小さくするほど、コーティング膜の密着強度が増大する、との結論が得られている。窒化とDLCなどPVDコーティングとの複合処理の際には、窒化による化合物層を除去することも容易で、密着性向上のための中間加工としても使用できるという。
エアロラップ処理はまた、成膜後のドロップレットを除去してコーティング表面を滑らかにすることで、金型の離型性を向上できる。金型にTiNコーティングを施した際にRa0.195μmだった表面粗さが、エアロラップ処理で30秒間加工することでRa0.038μmと約1/5に面粗度が向上している。
摺動性の改善など機械的特性を高める手法としても、エアロラップ処理の適用を進めている。同処理によるDLCコーティングの摩擦低減効果の例では、空気圧シリンダや油圧ダンパを用いたインテリジェント義肢のロッドで摩擦低減を目的に適用されているDLCコーティングの面粗度をエアロラップ処理で改善してさらに低摩擦化。より滑らかなロッドの動きを実現することによって、義肢の運動機能を高めることに成功している。
同社では、成膜の前後処理としてエアロラップ処理を適用しコーティングの各種特性の向上につなげることで、DLCコーティングなどドライコーティングの市場拡大に貢献したい考えだ。
UBMS法によるDLC膜の面粗さ向上