第13回岩木賞が発表、優秀賞に富山県立大学・日本工業大学
トライボコーティング技術研究会、未来生産システム学協会(NPS)などからなる岩木賞審査委員会は、「第13回岩木トライボコーティングネットワークアワード(岩木賞)」を発表した。岩木賞は、表面改質、トライボコーティング分野で著しい業績を上げた個人、法人、団体を顕彰するもので、当該分野で多くの功績を残した故 岩木正哉博士(理化学研究所 元主任研究員、トライボコーティング技術研究会 前会長)の偉業をたたえ、2008年度より創設されたもの。
13回目となる今回は、富山県立大学・岩井 学氏ならびに日本工業大学・二ノ宮 進一氏が業績名「導電性ダイヤモンドを利用した精密加工工具の開発」により優秀賞に、また、プラズマ総合研究所が業績名「光輝窒化を可能とするアトム窒化法の開発」により特別賞に輝いた。さらに、池上金型工業が業績名「虹色加工を施した金型製作と射出成形品の製作」により事業賞を受賞した。
優秀賞の業績「導電性ダイヤモンドを利用した精密加工工具の開発」は、高濃度のボロンをドープした導電性ダイヤモンドの持つ特性を活用して、ダイヤモンド素材の微細放電加工、微細放電加工を可能とする極低消耗放電加工用ダイヤモンド電極、導電性ダイヤモンド切刃砥石、三次元骨格構造を有する多孔質ダイヤモンド砥石、多結晶ダイヤモンド焼結体(PCD)を利用する砥石など、種々の分野に適用する新しい技術を確立したことが評価された。たとえば近年、金型や工業製品の難加工材化、微細化、高精度化に伴い、微細・精密放電加工の要求が高まっているが、微細形状の放電加工ではパルスオンタイムが短い放電条件が使用されるため、工具となる電極材の消耗が著しく、形状精度の確保が難しいという課題があった。特に超硬合金に対する電極消耗は既存の銅電極では電極消耗率を5%以下にすることが困難であるのに対して、本業績では世界で初めて導電性ダイヤモンドを電極素材として活用する方法を開発。金型鋼の放電加工において電極消耗量がほぼゼロであるとともに、超硬合金に対しても電極消耗量が0.5%以下と極めて少なく、精密放電加工を行う上で有効な電極材と見られている。
特別賞の業績「光輝窒化を可能とするアトム窒化法の開発」では、窒素分子を容易に解離できる40V~100Vの加速電圧範囲を持つ大電流電子ビーム源を励起源として用いる窒化処理装置を独自開発、イオン窒化の動作ガス圧の約1/1000である0.2Paという低いガス圧でも運転できるほか、イオン窒化と同程度の窒化特性を得るのに十分な高密度の窒素原子を生成できる窒化技術「アトム窒化法」を開発。高濃度の窒素原子雰囲気の中でイオン衝撃なしに行われる窒化のため、化合物層の形成や表面荒れを生じないことから光輝性が精密金型にも窒化できるようになることや、アトム窒化したワークの上にそのまま硬質被膜を成膜すること(複合硬化処理)が可能で、基材と硬質膜の密着性が従来法よりも優れていることなどが評価された。ワークの窒化時に負バイアス電圧を印加する必要がないため、これまで窒化処理が適用できなかった工具・刃物の鋭利な刃先の窒化処理を可能とした上、工具・刃物の使用寿命を大幅に改善できること、さらに今後需要拡大が見込まれる先進運転支援システム(ADAS)用光学部品向け超精密金型の製作が切削加工のみで可能になり、製造コストの低減につながるとしている。
事業賞の業績「虹色加工を施した金型製作と射出成形品の製作」は、製品の金型表面に虹色加工を施すことで射出成形のみで樹脂成形製品に加飾を行うことができることや、発色させたい部分の制限も少なく、後処理が必要なくなり工程削減やコスト削減、また、環境に配慮した製品を市販に供給できること、さらには虹色加工を施した独自の製品化により製品アピールにもつなげることが可能なことなどが評価された。虹色を発色させる金型表面のパターンは波長に近い数百nmレベルのことが多く、金型表面にnmオーダーの切削加工が必要となる。100nm変化すると色の強度も変わってしまうことから、それ以下の誤差にしなくてはならず、本技術では4軸超精密油圧駆動システム加工機を用いた独自の加工方法を考案し加工を試みている。すでに自動車では内装品(メーターパネル・スイッチ類)のデザイン性が重視されるパーツに活用されているほか、飲料水メーカーが本技術を活用した加飾による容器の差別化を目指して製品を開発中で、さらには加飾用途だけでなく、回折を利用したミラーやレンズの光学分野にも適用可能など、用途は多岐にわたると見られている。
第13回岩木賞の贈呈式と受賞業績の記念講演は、2021年2月26日に埼玉県和光市の理化学研究所 和光本所で開催される「理研シンポジウム:第23回トライボコーティングの現状と将来」で行われる予定。