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SEMICON Japan 2024

 

トライボコーティング技術研究会、第13回岩木賞贈呈式、第23回シンポジウムを開催

 トライボコーティング技術研究会(大森 整会長)と理化学研究所は2月26日、埼玉県和光市の理化学研究所 鈴木梅太郎記念ホールで、「岩木トライボコーティングネットワークアワード(岩木賞)第13回贈呈式」および「第23回『トライボコーティングの現状と将来』シンポジウム-導電性ダイヤモンド応用技術、光輝窒化処理ならびに微細金型加工-」を開催した。今回はリアル開催とWeb会議システムを利用したオンライン開催という、ハイブリッド開催となった。

第13回岩木賞受賞者と関係者
第13回岩木賞受賞者と関係者

 岩木賞は表面改質、トライボコーティング分野で多大な業績を上げた故・岩木 正哉博士(理化学研究所 元主任研究員、トライボコーティング技術研究会 前会長)の偉業を讃えて、当該技術分野と関連分野での著しい業績を顕彰するもの。トライボコーティング技術研究会が提唱して2008年度に創設、未来生産システム学協会(NPS)が表彰事業を行っている。

 13回目となる今回は、富山県立大学 岩井 学氏ならびに日本工業大学 二ノ宮進一氏が業績名「導電性ダイヤモンドを利用した精密加工工具の開発」により優秀賞に、また、プラズマ総合研究所が業績名「光輝窒化を可能とするアトム窒化法の開発」により特別賞に輝いた。さらに、池上金型工業が業績名「虹色加工を施した金型製作と射出成形品の製作」により事業賞を受賞した。

 優秀賞の業績「導電性ダイヤモンドを利用した精密加工工具の開発」は、高濃度のボロンをドープした導電性ダイヤモンドの持つ特性を活用して、種々の分野に適用する新しい精密加工技術を確立したことが評価された。たとえば微細形状の放電加工では工具となる電極材の消耗が著しく形状精度の確保が難しいという課題があり、特に超硬合金に対する電極消耗は既存の銅電極では電極消耗率を5%以下にすることが困難だった。これに対し本業績では、世界で初めて導電性ダイヤモンドを電極素材として活用する方法を開発。金型鋼の放電加工では電極消耗量がほぼゼロで、超硬合金に対しても電極消耗量が0.5%以下と極めて少なく、精密放電加工を行う上での有効な電極材と見られる。

左から二ノ宮氏、岩井氏、大森会長、当日にプレゼンターを務めた熊谷泰副会長
左から二ノ宮氏、岩井氏、大森会長、当日にプレゼンターを務めた熊谷泰副会長

 受賞の挨拶に立った岩井氏は「この研究は2002年に私の恩師である日本工業大学の鈴木清先生の研究室で電気が通るダイヤモンドに出会ったことから始まった。ダイヤモンドは硬く耐摩耗性に優れるため、電気を使った加工や電気を流すことによって使用する用途など、色々と用途開発を二ノ宮先生と私のもう一人の恩師である植松哲太郎先生と取り組んできた。研究は約20年に及ぶが、その間、企業の方々にご協力いただきながら色んな成果を挙げてきた。この賞をいただいたことを励みにして二ノ宮先生とともに新しい技術開発に邁進していきたい」と謝辞を述べた。

謝辞を述べる岩井氏
謝辞を述べる岩井氏

 特別賞の業績「光輝窒化を可能とするアトム窒化法の開発」では、イオン窒化の動作ガス圧の約1/1000である0.2Paという低いガス圧でも運転でき、イオン窒化と同程度の窒化特性を得るのに十分な高密度の窒素原子を生成できる「アトム窒化法」を開発。高濃度の窒素原子雰囲気の中でイオン衝撃なしに処理されるため、化合物層の形成や表面荒れを生じないことから光輝性が良好で精密金型にも窒化できることや、アトム窒化したワークの上に成膜した硬質被膜では、基材と硬質膜の密着性が従来法よりも優れていることなどが評価された。ワークの窒化時に負バイアス電圧を印加する必要がないため工具・刃物の鋭利な刃先の窒化処理を可能とした上、工具・刃物の使用寿命を大幅に改善できるとした。

左から原氏、大森会長、熊谷副会長
左から原氏、大森会長、熊谷副会長

 受賞の挨拶に立った原 民夫氏(プラズマ総合研究所 代表取締役)は「この技術は、だいぶ昔のことになるが私が理化学研究所に在職していた時に同僚の浜垣学さんと相談しながらプラズマの発生法などをコツコツとやってきた。それから豊田工業大学に教授として赴任して、様々な方からのサポートを受けながら何とか続けてきた。開発技術によって窒化したワークを調べてみると、従来にない特性などがみつかり事業として定着するのではないかと考えている。今回の受賞はそういった意味で大きな勇気を与えていただいた」と謝辞を述べた。

謝辞を述べる原氏
謝辞を述べる原氏

 事業賞の業績「虹色加工を施した金型製作と射出成形品の製作」は、製品の金型表面に虹色加工を施すことで射出成形のみで樹脂成形製品に加飾できることや、発色させたい部分の制限も少なく、後処理が必要なくなるため工程削減やコスト削減が可能なこと、また、環境に配慮した製品を市販に供給できることなどが評価された。虹色を発色させる金型表面のパターンは波長に近い数百nmレベルのことが多く、金型表面にnmオーダーの切削加工が必要となる。100nm変化すると色の強度も変わってしまうことから、それ以下の誤差にしなくてはならず、本技術では独自の加工方法を考案し加工を試みた。さらに、三次元形状などにも対応可能な加工方法を研究開発中という。

 Web会議システムにより受賞の挨拶を行った池上正信氏(池上金型工業 代表取締役)は「虹色加工は当初はレンズ用金型を作る過程でうまくいかなかった製品としてスタートしている。ただ、その金型の一部が非常にきれいな色に輝いていたことから商品化につながった。今後、手間や工程を減らすニーズや、独創的な製品意匠をつくりたいなどの要望に応えられる技術になると期待している。今回いただいた岩木賞は我々への励ましになるとともに、さらなる発展のきっかけになる」と謝辞を述べた。

Web会議システムで謝辞を述べる池上氏
Web会議システムで謝辞を述べる池上氏

 贈呈式の後はシンポジウムに移行。岩木賞の記念講演として優秀賞に輝いた富山県立大学・岩井氏が、特別賞に輝いたプラズマ総合研究所・原氏が、事業賞に輝いた池上金型工業・松澤 隆氏が、それぞれ講演を行った後、以下のとおり1件の特別講演と2件のトライボコーティング技術研究会会員による講演がなされた。

・特別講演「革新的半導体デバイスを支える高効率加工プロセスの展望―3次元構造/化合物半導体の加工プロセスの展望―」土肥俊郎氏(九州大学 名誉教授/Doi Laboratory)…半導体Siウェハの加工プロセスを例に現状の研磨/化学機械研磨(CMP)のキーとなる要素技術を概説し、高効率CMPの向上の方策を示した上で、次世代デバイスとして期待される化合物半導体SiC、GaN、ダイヤモンドなど難加工性単結晶素材の次世代加工技術として開発した密閉式加工環境コントロール型CMP法や、プラズマ融合CMP法を紹介、これらの手法を適用した上記の難加工性単結晶素材の加工で従来技術を大幅に上回る高効率・高品位加工を実現できたことを報告した。

・会員講演「硬質粒子電着による高機能タップ工具の開発」齋藤庸賀氏(東京都立産業技術研究センター)…粒径10μmのcBN粒子と粒径5μm、1μmのSiC粒子をNiPめっきにより被覆することで硬質粒子複合めっきを作製、同めっきを表面に施したスパイラルタップを開発し、工具折損の原因の一つである切りくずの巻き付きを抑制する効果を実験的に明らかにし、その切りくずの巻き付き抑制メカニズムについて考察した。本研究によって、開発した粒径1μmのSiC粒子電着タップ工具は切りくずの長片化を抑制しカール直径を小さくすることで、50m/minの高速切削条件においても優れた切りくず巻き付き抑制対策を有することが明らかになった。

・会員講演「光メタマテリアル、作り方と使い方」田中拓男氏(理化学研究所)…波長より細やかな人工構造を用いて物質の化学特性を制御した疑似材料であるメタマテリアルの基礎に触れた後、メタマテリアルをどのように作り出すかという加工技術についての研究成果を紹介した。さらにメタマテリアルの応用技術として、光を完全に吸収する光吸収体やそれを利用し作製の難しい黒色などの発色体、赤外分光技術の高感度化への応用例を紹介した。特定の波長域の光を選択的に透過させることで、エネルギーを使わずに物体を冷やすクーラー技術についても紹介した。

第23回シンポジウムのもよう
第23回シンポジウムのもよう