産業技術総合研究所( http://www.aist.go.jp )は、有機フッ素化合物を用いずに優れた撥油性を示す表面処理技術を開発した。
現在、撥油処理はフッ素樹脂に代表される有機フッ素化合物が使用されている。しかし、有機フッ素化合物の人体や環境への影響が懸念され、これらの物質群に対する規制も年々厳しくなっている。また、フッ素源となる原料(蛍石) の価格高騰もあり、有機フッ素化合物を用いない表面処理技術が求められているという。
今回開発した表面処理技術では、まず、一般的な撥水処理剤であるアルキルトリアルコキシシラン(有機シラン)と、ガラスの原料となるテトラアルコキシシラン(スペーサーシラン)を混合し、塗液を調製する。この塗液を各種基板に塗装し、常温で乾燥させると膜厚1µm程度の透明な塗膜が得られる。この処理技術により得られた表面上では、油滴は表面にピン留めされることなくスムーズに動き、優れた撥油性を示した。また、有機フッ素化合物(パーフルオロアルキルトリアルコキシシラン<有機フッ素シラン>)で処理された表面やフッ素樹脂表面よりも撥油性に優れていた。なお、この処理技術の各工程で特殊な装置や条件は必要としない。
各種基板表面に噴霧した油滴の様子 (a)今回開発した技術による表面処理、(b)有機シランのみの表面処理、(c)有機フッ素シラン表面処理、(d)フッ素樹脂板(a~cはガラス基板を使用。各基板は60°傾斜、噴霧後30秒経過)
今回開発した表面処理技術により、各種の基材表面に優れた撥油性が付与できるため、液体と表面との流動抵抗の減少による省エネルギー化が期待できる。また、この技術による表面塗膜は、撥油性に加えて透明性にも優れるため、各種基材の油汚れ防止への応用が期待できる。今後は、タッチパネルディスプレーや窓ガラスの油汚れ(指紋付着)防止、繊維への油汚れしみ込み防止、建物内配管・化学プラントなどにおける流体搬送用動力の低減などへの応用展開を目指して、実使用環境下での性能・耐久性を評価していく。