トライボコーティング技術研究会は5月28日、埼玉県和光市の理化学研究所で「令和3年度第1回研究会及び総会」を開催した。当日は実地およびオンラインによるハイブリッド開催となった。
当日は大森 整会長(理化学研究所)の開会挨拶に続いて、以下のとおり講演がなされた。
・「FCVセパレータ向けなどトライボコーティングの最近の話題」滝沢正明氏(IHIハウザーテクノコーティングB.V.)…同社がPVD装置を提供している装飾用途、トライボ用途、ツール用途のうち、トライボ用途でのダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングの応用例として、自動車の燃料噴射系や動弁系、ピストンシステム、風力発電装置向けテーパーころ軸受などを紹介した。また、最先端アークコーティングCARC+処理による水素フリーDLC(ta-C)およびドロップレットのない平滑な膜を密着性良く成膜できる高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)の技術進化(HIPIMS第1~3世代)について解説。さらに、同社の燃料電池車セパレータ向けカーボンコーティングが接触抵抗(ICR)測定や耐食性試験、定常・動的負荷試験で良好な性能が確認されており、パイロット生産フェーズでは最大サイズのバッチ式成膜装置FLEXICOAT1500が、量産フェーズではインライン成膜装置「METALLINER」が適用できると述べた。
・「金型や摺動部材の表面改質熱処理技術に関する紹介」渡邊陽一氏(日本パーカライジング)…製品の高強度化+加工の高サイクル・高面圧化が求められる金型に関してトレンドとなってきている窒化系表面硬化処理の高精度化と複合化について、また、日産自動車「e-POWER」を例に高いモーター回転数~30000rpm=高強度化(高面圧・高滑り速度)、静粛性=低ひずみの要求に対して摺動部材に高機能化+低ひずみの表面改質⇔窒化系表面硬化処理の高精度化と複合化について紹介。酸化と窒化を同時に行う新しい塩浴酸軟窒化法「イソナイトLS」では、この最表面に形成されるLi+Fe複合酸化層による独特の機能を活かして、ダイカスト金型、各種鍛造金型、および摺動部材への適用が堅調に進む傾向があるとした。ガス窒化・軟窒化技術は、窒化ポテンシャル制御技術の一層の高精度化に加え、窒化組織や窒化機構および高機能特性が解明されつつあり、これを契機に窒素を利用した高・多機能化開発による新たな摺動部品や金型への展開が進むと予想した。
研究会に続いて総会が開催され、令和2年度 活動報告・会計報告がなされ、令和3年度 活動計画が発表された。役員改選では、会長に大森 整 氏(理化学研究所 主任研究員)、副会長に熊谷 泰 氏(ナノコート・ティーエス社長)と野村博郎 氏(理化学研究所 大森素形材工学研究室 嘱託)が再任された。
総会後は、理化学研究所・伊藤ナノ医工学研究室の見学会が行われ、伊藤嘉浩氏が開発した、微量採血(検体量20μL)で41項目を同時に30分で検査できるマイクロアレイ・バイオチップを用いた検査システムなどが紹介された。