島津製作所は、日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門(以下、原子力機構)と共同で、世界最高クラスのレーザー耐性を持つレーザーミラーおよび高耐力ARコーティング(反射防止膜)を開発した。
レーザーはその有用性から広く社会で使用されているが、レーザー応用分野の発展に伴い、より強度の高いレーザーが望まれている。たとえば、産業分野においては、レーザー加工の速度向上のために、医療分野においてはX線ビームの発生のために、そして理化学分野においては感度の高いレーザー計測の実現のために、高強度のレーザーが期待されている。
レーザーには、レーザー光を発振させるための共振器を構成するレーザーミラーが欠かせない。また発振したレーザー光を伝送・制御するためにもレーザーミラーが必要となる。これらのレーザーミラーには、一般的に光の吸収・散乱が少なく、極めて高い反射率をもつ誘電体多層膜が用いられている。しかし高強度のレーザーで使用すると、熱や電界などの衝撃により誘電体多層膜が破壊され、ミラーとして機能しなくなるという問題点があった。
島津製作所および原子力機構は、高強度のレーザー光であっても破壊されにくいレーザーミラー(高耐性レーザーミラー)の研究過程において、レーザー光によってミラーが破壊されるメカニズムを解明した。元々アモルファス(非晶質)膜である誘電体多層膜に高強度なレーザー光が照射されると、誘電体多層膜の結晶化が進み、結晶化された部分から順次破壊が起きることを発見した。そして、結晶化しにくいアモルファス膜ほど高強度のレーザー光に対して優れた耐性を有するという研究成果を得た。
この研究成果を元に、成膜中の多層膜に酸素イオンを照射する技術の導入および多層膜の成膜スピードなどの条件の最適化により、結晶化しにくい誘電体多層膜の成膜技術を開発した。本技術に加え、最適な多層膜材質を選定することと島津製作所独自の設計手法を駆使することで、反射率・面精度・表面品位を備えた高い耐性を持つレーザーミラーを開発した。また、これら一連の技術により、レーザーミラーだけでなく、従来の2倍の耐性を持つ高耐力ARコーティングを得ることにも成功した。
本レーザーミラーは、原子力機構・関西光科学研究所において実施されている文部科学省の公募型プログラム「最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点(平成20-29年度)」で現在、研究開発中の「高出力THz波発生光源(QUADRA-T)用のドライバーレーザー」で使用されるレーザーミラー等の光学素子に採用されている。