TTRFと大豊工業、自動車のトライボロジーで第6回 国際シンポジウムを開催
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2023年05日09日(火)
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大豊工業トライボロジー研究財団(TTRF)と大豊工業は4月13日、名古屋市の名古屋国際会議場で「TTRF-TAIHO International Symposium on Automotive Tribology 2023」を開催した。
開催のようす
「トライボロジーの自動車社会への貢献」を全体テーマに掲げる同シンポジウムは、トライボロジー研究の進展と自動車技術への応用等に関しトップレベルの情報を交換するとともに、この分野での産学連携の現状と将来の可能性を示しその強化を図ることを目的に、2016年から開催されている。6回目となる今回は 、「Future Prospects of Tribological Materials Surviving a Once in a Century Period of Profound Transformation Part 2 Surface Treatment(100年に一度の大変革期に対応するためのトライボロジー材料の将来展望~Part2 表面処理~)」のテーマのもとで、低摩擦を目的とした表面処理技術や耐久性・信頼性向上を目的とした表面処理技術などが紹介された。
開会の挨拶に立った鈴木徹志氏(大豊工業副社長)は、大豊工業が曾田範宗氏や木村好次氏をはじめとするトライボロジー研究の第一人者の指導を受けながらトライボロジーをコア技術としてマイクログルーブ軸受や樹脂コーティング軸受といった先進エンジンベアリングを世に送り出してきたことや、同社が多くの恩恵を受けてきたトライボロジーの研究開発支援と啓蒙に寄与する目的でTTRFを2000年に設立し、以降、多数のトライボロジーの研究テーマに対し累計220万USドルの助成を行っていることを報告した。また、学界と産業界のコラボレーションの強化によって一層のトライボロジー研究の活性化を支援していく目的で2016年から本シンポジウムを開催していることを紹介。自動車業界の大変革期にあってトライボロジーの諸課題が厳しさを増す中で、産学連携の強化によるトライボロジー技術の一層の高度化が課題解決に寄与できるとの観点から、「本日のシンポジウムにおいても、学界と産業界の両者の活発なディスカッションを通じて、トライボロジー研究開発の促進につながることを期待している」と述べた。
挨拶する鈴木氏
続いて、Kenneth G. Holmberg氏(TTRF Director)をチェアマンに、以下のとおり基調講演が行われた。
「Development of Future Powertrains for Commercial Vehicles」石川直也氏(いすゞ中央研究所)…地球温暖化防止の重要な施策としてCO2削減が要求され、自動車の電動化が進められる一方で、電力を火力発電に頼っている現状からは車両の電動化だけではCO2削減にはつながらず、発電を含めた完全な電動化が達成されるまでは、内燃機関(ICE)車では再生可能エネルギー由来の燃料の使用や熱効率の改善を進める必要がある。本講演では、物流や生活を支える商用車として、稼働コストや耐久信頼性、航続距離といったユーザーの要求に対応しつつLCAでのカーボンニュートラルを実現するための取組みを紹介。EHL理論をベースにしたクランクシステムの摩擦低減・耐久信頼性向上のための解析技術や、潤滑技術や表面改質技術を活用した部品の寿命延長のほか、部品の潤滑状態や摩耗状態の予測技術を高めることでLCAでのCO2削減に貢献できると述べた。
「New Development of Functional Surface Finishing Technologies for Next Generation Automobiles」呉 松竹氏(名古屋工業大学)…ICE車から電気自動車(EV)への転換によるエネルギー消費の節減・改善を目的に軽量化が進められる中、表面改質の対象となる材料として、アルミニウム、マグネシウム、チタニウム合金といった様々な軽量素材が採用されてきている。本講演では、EVへの転換で登場してきた部品(リチウムイオンバッテリーの部品など)に対応する表面改質技術が求められる中で、変速機用部品向けなどでアルミ合金の潤滑性・耐摩耗性を高めるAl2O3/MoS2(-Sn, Ni) コーティングや、電気端子や電気接点向けなどで銅合金に高い導電性や耐摩耗性を付与するAg(Sn)グラフェン複合コーティング、リチウムイオン電池の電極材料などに大容量と高い安全性を付与するTiO2-TiN(Sn, MoOx)複合コーティングなど、次世代車両に対応する様々な非鉄材料系表面処理技術を紹介した。
上記2件の基調講演に続き、加納 眞氏(KANO Consulting Office)をチェアマンに、「低摩擦(Low Friction)の表面処理」をテーマとするセッションが以下のとおり行われた。
「Friction Reducing Methods of DLC Films in Oil-less Conditions」徳田祐樹氏(東京都立産業技術研究センター)…環境問題などからしゅう動部品の無潤滑化が求められる中、低摩擦特性や耐摩耗性などを表面に付与できる表面改質技術としてダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングが注目されている。ここでは、無潤滑下で低摩擦を実現するDLC技術として、300℃程度で予熱し最表面にグラファイトライク構造を形成した傾斜膜とすることで摩擦・摩耗特性を改善した事例や、マイクロスラリージェットエロージョン(MSE)法を用いてDLC膜に表面テクスチャを形成することでしゅう動とともにグラファイト化したDLC膜の摩耗粉をテクスチャ内に捕捉し低摩擦化を図った事例、塩素ドープDLC膜によって耐摩耗性と超低摩擦を付与した事例などを紹介した。
「Development of DLC Reinforced Metal Matrix Coatings for Low Friction Sliding Components」Shahira Liza binti Kamis氏(Universiti Teknologi Malaysia)…ベアリングなどしゅう動部品においては、オイルの使用に伴う環境への配慮から、また風力発電など遠隔地にあって保守の難しい用途において、DLCなどの自己潤滑性材料による低摩擦化が求められている。本講演では、電気化学的成膜法を用いて、しゅう動部品の一方の材料にDLCフレークを分散させることによって、しゅう動時の無潤滑下での低摩擦化を図る手法を紹介した。開発した自己潤滑性を有するDLC/CuやDLC/NiなどのDLC強化複合コーティングは、潤滑油の供給なしにしゅう動部品の低摩擦化を実現。金属膜にDLCを添加し効率的に自己潤滑性を得る本手法を適用することで、各種機械が少ないエネルギーで同程度の出力を得られ、さらに部品の寿命を延長できる、と総括した。
「Material Design for Control of Tribo-film Structure Formed from Friction Modifiers」小池 亮氏(トヨタ自動車東日本)…エンジン油の低粘度化とともに自動車しゅう動部品の境界潤滑下での摩擦が増え、MoDTCに代表される摩擦調整剤への要求が高まっている。しかし、自動車しゅう動部品において適用の進むDLCなど硬質膜の種類により、摩擦調整剤の効果を発現するトライボフィルムの形成が影響される。本研究では、MoDTC添加油中における硬質膜を用いた摩擦系での低摩擦発現に関し、硬質膜自体が反応性を持たないCrNなどの窒化物膜は摩擦初期のなじみ過程で相手材からのFeの移着が低摩擦発現のためのトライボフィルム形成の必要条件であることや、トライボフィルムが最表層にMoS2を形成するには硬質膜基材とFe酸化物の結晶の格子定数が整数倍となることによって形成される緻密な Fe酸化物のナノ界面の形成が必要なこと、などを明らかにした。
また、上坂裕之氏(岐阜大学)をチェアマンに、「耐久信頼性向上(Improve Durability and Reliability)の表面処理」をテーマとするセッションが以下のとおり行われた。
「Advanced Durability Surface Treatment Materials of Sliding Bearing for High Performance Diesel Engine」児玉勇人氏(大豊工業)…ディーゼルエンジンの高出力化とともにエンジンベアリングに対する負荷は高まる傾向にある。同社では高PVに対応する鉛フリーの表面処理技術として、銅合金エンジンベアリング向けのビスマス(Bi)コーティングやアルミ合金エンジンベアリング向けの樹脂コーティングを開発している。Biコーティングはトライボロジー特性に優れるものの、より高出力化するディーゼルエンジンのベアリングとしては軟質金属のため機械的強度が足りず、疲労摩耗特性が十分ではないという課題があった。本講演ではこの課題に対して、Biコーティングにアンチモン(Sb)を添加した新開発のコーティングが耐疲労強度を向上したことや、樹脂コーティングにおいて組成を最適化することで同様のアプリケーションに耐える耐摩耗性を付与できたことなどを報告した。
「Development of High strength and Anticorrosive Aluminum Alloys and Improvement of Fatigue Property」芹澤 愛氏(芝浦工業大学)…自動車の軽量化を目的にアルミニウム合金の適用が進む中で、アルミニウム合金に耐食性を付与する表面改質技術が求められている。本講演では、蒸気コーティング法でアルミニウム合金表面に緻密に成膜した水酸化アルミニウム被膜(AlO(OH))が水酸化物結晶の腐食防止効果によって高い耐食性を示すことや、蒸気コーティングの熱エネルギーによって硬度が上昇しアルミ合金の強度が高まったことなどを紹介した。動電位分極曲線からは水酸化アルミニウム被膜を被覆した基材の腐食電流密度が減少していることや孔食が抑制されていることが分かり、平面曲げ疲労試験からは水酸化アルミニウム被膜を被覆した試験片疲労亀裂の発生が抑えられ、アルミニウム合金の疲労寿命延長に寄与できることが確認された。
「Improvement of Fatigue Strength by Mechanical Surface Treatment Using Sustainable Peening Method」祖山 均氏(東北大学)…自動車の燃費・電費改善から、低摩擦化や耐久性・信頼性の向上と、環境負荷低減が求められている。本講演では、この目的に対応した、消耗材であるショット材を用いることなく疲労強度改善が可能な、サスティナブルな機械的表面改質技術「キャビテーション・ピーニング」を紹介。キャビテーション気泡の崩壊時に生じた衝撃力を有効利用してピーニングを行うキャビテーション・ピーニングが、表面硬化や残留圧縮応力の付与を実現しつつ平滑な表面を生成できることや、キャビテーション・ピーニングによってギヤやローラの疲労特性が改善された事例などが紹介された。
講演終了後は、杉原功一実行委員長(大豊工業社長)が挨拶に立ち、「今回は100年に一度という自動車業界の大変革におけるトライボロジー材料の将来展望と、低摩擦および耐久信頼性向上のための表面処理技術という、二つのテーマでセッションを設けた。その中でトライボロジー材料:表面処理技術についての貴重な講演がなされ、学界と産業界との活発な議論がなされた。本日のシンポジウムの成果がSDGS実現に向けたトライボロジー課題の解決につながることを祈念するとともに、今後シンポジウムをより意義のあるものとして開催できるよう、参加いただいた皆様からのご意見やご示唆をいただければ幸いである。本シンポジウムの開催を継続しつつレベルアップを図っていき、産官学の連携をより強固なものにしていく一助とできれば大変うれしい」と述べて、シンポジウムは閉会した。
挨拶する杉原実行委員長